つまりはハチャメチャなのです。
「 幽霊鉄仮面 」（横溝正史）
（「横溝正史少年小説
コレクション③夜光怪人」）
「幽霊鉄仮面」（横溝正史）角川文庫
新聞広告として載せられた
殺人予告。狙われたのは
宝石王と呼ばれる男。
そして命を狙うのは
広告主･鉄仮面。
その秘密を探った記者を、
鉄仮面は鮮やかな手口で葬る。
後輩を無残にも殺害された
三津木俊助は、
事件解決に乗り出す…。
柏書房の
｢横溝正史少年小説コレクション｣
刊行により、
横溝ジュヴナイルのブームが
再燃しそうな雰囲気のある昨今です。
まもなく発売される
第3巻｢夜光怪人｣に収録予定の本作を、
40年ぶりで再読しました。
再読して…、驚きました。
他の横溝ジュヴナイル作品には
見られない｢ハチャメチャさ｣に
驚いたのです。
【主要登場人物】
唐沢雷太
…宝石王の老人。
鉄仮面に命を狙われる。
恩田
…唐沢の使用人。
鉄仮面に買収されている。
御子柴進
…唐沢の遠縁の親類。少年。
折井律太
…新日報社社員。
鉄仮面の秘密を握り殺害される。
桑野妙子
…新日報社編集長秘書。21歳。
鮫島
…新日報者編集長。
矢田貝修三
…法医学者兼探偵。
香椎文代
…鉄仮面に狙われる人気女優。
亡父が鉄仮面の恨みを買っている。
19歳。
仙公
…文代の劇場の大道具係。
東座蓉堂
…謎の老人。
アリ
…蓉堂の使用人。黒人。
牧野慎蔵
…冒険家。鉄仮面に命を狙われる。
モロゾフ
…モンゴル現地部族の酋長。
等々力警部…警視庁警部。
三津木俊助…新日報社記者。
由利麟太郎…私立探偵。
本作品のハチャメチャさ①
これは少年向け｢スパイ大作戦｣か
本作品の出だしは｢見立て殺人｣
それも｢予告殺人｣と、
横溝らしい本格的ミステリで
始まるのですが、
途中からは善玉悪玉入り乱れての
スパイ合戦となります。
ネタバレしないように説明すると…、
｢○○は△△の付き人として
潜入するが、
そもそも□□と何らかの関係があり、
いわば二重スパイとなっている｣
｢××は死んだと思われていたが
◎◎に扮して内偵していた｣
｢▽▽は☆☆の使用人だが
◇◇の手下で、
さらに※※に化けている｣。
もうわけがわかりません。
つまりはハチャメチャなのです。
本作品のハチャメチャさ②
これは行き当たりばったりの漫画か
鮮やかな手口で殺害された折井。
そして予告どおりに殺害された唐沢。
ここまでは順調でしたが、
残り二人は
｢見立て殺人｣も｢予告殺人｣も失敗し、
筋書きはどんどん
行き当たりばったり的に
広がっていきます。
第二の殺人に失敗すると
予定を変更して
第三の殺人に取りかかる、
狙うものと狙われるものの
立場が逆転して
鉄仮面が命を落としそうになる。
由利麟太郎が参戦するものの
鉄仮面に幾度も出し抜かれる。
スリルを重視して
筋書をめまぐるしく変える
漫画のような展開です。
つまりはハチャメチャなのです。
本作品のハチャメチャさ③
これは押川春浪の冒険小説か
極めつけは終盤です。
鉄仮面は妙子･文代の二人を
拉致したまま飛行機を略奪し、
そのままモンゴルの秘境まで逃避行。
それを追って由利･三津木･御子柴の
3人もすぐにモンゴルへ。
昭和初期には
国境移動はそんなにも楽だったのか？
3人はどうやって移動したのか？
日本から何の準備もなしに秘境へ渡り、
大丈夫だったのか？
特に妙子･文代の二人の若い女性は
どうやって歩いた？
沸き起こる読み手の疑問を
一切無視して、
筋書きはモンゴルの現地部族との
アクション劇へと展開します。
明治の奇才･押川春浪を彷彿とさせる
冒険劇。
つまりはハチャメチャなのです。
さて、少年読者を対象とした
推理ジュヴナイルは、
戦前には乱歩が｢怪人二十面相｣を
皮切りに少年探偵団シリーズを
開始しました。
それが日本における推理ジュヴナイルの
嚆矢となります。
昭和11年のことです。
そして続く第二弾｢少年探偵団｣が
昭和12年1月から
連載開始となりました。
それに対して横溝が、
同じ昭和12年4月に
負けじとばかりに放った
長編ジュヴナイルこそ本作品
｢幽霊鉄仮面｣だったのです。
つまり本作は｢失敗作｣ではありません。
｢実験作｣なのです。
戦後、探偵小説の面白さを
少年たちにも伝えたいと願った横溝が、
苦労に苦労を重ねて著した
長編ジュヴナイルの第一作なのです。
｢二十面相｣｢少年探偵団｣｢明智小五郎｣と
シリーズの軸が見えてきていた
乱歩と違って、
方向性の定まっていなかった横溝が、
今後の方針を決めるべく
ありとあらゆる要素を
詰め込んだのではないかと
考えられるのです。
ハチャメチャであってもいいのです。
決して無視できる作品ではなく、
これも横溝の足跡の
貴重な一つなのです。
横溝ファンは心して
本作品を読みましょう。
※柏書房
「横溝正史少年小説コレクション
③夜光怪人」収録作品一覧
幽霊鉄仮面
夜光怪人
怪盗どくろ指紋
深夜の魔術師
深夜の魔術師(未完作品)
深夜の魔術師(未発表原稿)
死仮面された女
（2021.8.20）
〔追記〕
角川文庫｢幽霊鉄仮面｣が
ついに復刊しました。
内容は同じであるにもかかわらず、
またしても購入してしまいました。
表紙はまったく同じです。
色艶がよくなりました。
表紙はまったく同じです。
色艶がよくなりました。
（2022.12.27）
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